藝大入試論考 建築科

  東京藝術大学美術学部建築科   合格者有志による入試情報・論考ポータル

【空】奥を闇にすることについて

昨日6/14、今年の公式参考作品ページが公開された。説明会でも言われるが、これに載るのは必ずしも優秀作品ではなくバリエーション(言い換えれば要素の歪み)重視ということで、毎年正統派で落ちた人々を不穏な気持ちにさせがちである。

f:id:GDpass_K:20180615235139j:image

そしてまあ、今年の初っ端がこれである。まず位置関係をみるに右のプロポーションが明らかにおかしいし、影の稜線も曲線にはならない。「形や影の正確さが全ての前提です」からの即オチ芸をやめろ。高名なる教授大先生様がたの目が節穴なんてことはまさかないだろうから、合格者へのなおの戒めとして受け取っておくのが筋か。

で、これを描いたのは僕なんだが、ひとつだけ言い訳したいのは画質である。赤外線カメラで撮ったのか知らないが、この写真のグレイッシュさは実物の印象とは異なる。コントラストを上げて見てみよう。

f:id:GDpass_K:20180615235108j:image

▲編集でもどうにもならないのは右の無限遠付近の黒鉛の照り。なるほど紙の外がどう見ても試験会場の床である。スキャンって知ってる?

そう、この光の鮮やかさこそが真髄である。本題に入ろう。

僕は秋口からずっと、空間構成の背景を暗くする手法を究めていた。入試もそれで行くと決めて。今日の記事はこれがいかに"アリ"かを語る。

 

 

 

0.奥は闇でもいい

空間構成の先例に慣れ親しんできた人からすれば、まず「こんなことしていいの?」であろう。僕も以前は思いつきもしなかった。全ての始まりは、正統派をやり尽くした空間構成職人(フルーツ)の実験的な制作の中の一枚だった。

f:id:GDpass_K:20180616005358j:image

透徹の感のある構成もさることながら、上方から降り注ぐ光の美しい階調と静謐な空気感は神聖ささえ感じさせる。真似して描いた僕の幾枚も遂にこれに到達することはなかっただろう。所詮は二番煎じであった。

しかし僕の仕事は、この方法論を敷衍したことだった。彼は"これには見えない壁と天井があり、あくまで本番には通用しないお遊びの設定"としてこの一枚で終わらせてしまったが、僕はここに"平行光線の範囲指定は無いのだから、闇の空間にもともとスポット的な光源が当たっている"という合法的解釈を与えて、実戦を前提に練習し始めた。以来、この手法は僕のものになった。価値を見出した人がエラいのである。

f:id:GDpass_K:20180616012715j:image

▲皆んなが口裏を合わせたようにマイクラのフラットワールドを想定することに、僕は最初から疑問を持っていましたよ(仮名・Oさん)

 

1.奥は闇の方がいい(見せ手として)

僕はこの絵に惹かれる理由を考えた。そもそも僕は黒背景が好きだった。目は陰でなく光を視るからだろうか、光の中に陰としての立体を視るより、陰の中に光としての立体を視るほうが、感覚的に鮮やかである。油画科などのデッサンでも、見せたい部分以外を闇に沈めるのは常套手段だ。そういう手法として従来「床を黒くして見下げ」があった。

f:id:GDpass_K:20180616014117j:image

しかし、見下げではいかんせん奥行きや迫力…建築的スケール感が出にくいのが問題であった。その点無限遠を闇にしてしまえばいくらでも見上げられるし、黒すぎる床に影が溶ける心配もなくなった。

f:id:GDpass_K:20180616015452j:image

▲普通とは逆に、奥に行くほど暗くなっていく。思い切って黒くして背景に溶かすのが、奥行きを出すコツ。

 

2.奥は闇の方がいい(描き手として)

見栄えがするのはわかったわ、でもお高いんでしょう(コストが)…?もしそうだったら僕はやっていなかっただろう。何を隠そう僕は普通のデッサンが下手くそで、だからこそこの手法に固執したのだ。

まず、ぱっと見つらそうな「塗る面積の広さ」だが、TMKや白象紙など目の細かい紙であれば、丸くなった8B〜4Bをザザッと塗ってススッと擦るだけで背景は10分もかからない。これが床だったらテクスチャを考えなければいけないが、それが不要なのも利点である。

f:id:GDpass_K:20180616022301j:image

▲黒いものを書こうとすると潰れるので背景のトーンは乗せすぎないよう。本番でもこれをやらかしている。

加えて、印象を強めようとするあまり限界の黒を立体の局所に用いるとしばしばトーンバランスが崩壊する問題が解決した。立体と関係なく一定の面積をもつ背景に黒を当てれば安全かつ効果的であり、浮き上がった白立体は少ない手数で自然なトーンが実現する。ここでコストを巻き返し、結果かかる時間は白背景と変わらないかむしろ時短になる。それで失敗や無駄が抑えられるんだから、こんなにうまい話はない。

f:id:GDpass_K:20180616023645j:image

▲反射光が映えるので、透明との親和性も高い。1.5hもあれば手の加えようがない密度になってしまうので、予備校では刻限の前に筆を置いて周りの邪魔に移ることが多かった。

 

次世代の空間構成へ

僕は「初めてやる人」だったので、本番のエスキースには課題文に対する解釈を挿絵つきで丁寧に書き残した。しかし、こいつが合格して、参考作品にまで載ってしまった以上、もはや後続はそんなことをする必要はなかろう。スタンダードは更新されたのだ。より作為的な光の絞り方が研究されることも自然だろう。

あなたは何を選び、いかに戦うか。

 

f:id:GDpass_K:20180616025827j:image

▲影はまだ気づかんが、実はプロポーションとかがだいぶマシになっていた再現。受験生はこっちを保存するように!

 

 

12/9追記:実演動画↓

空間構成デモスト(大西) - YouTube

(大西)