藝大入試論考 建築科

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藝大入試ルポ2018

※これは受験生だった(大西)の思考ログ時代のTwitter@GDpass_Kで入試当日の二日間(2018/3/6,7)にされた一連の記録ツイートを再構成した手抜き記事である。

 

 

3月6日〈空間構成〉

7時に目覚ましをかけておいたが6時に起きてしまった。脳はわかってるんだなぁ。緊張で下痢しても被害が浅いようにトイレを済ませ、のんびり出発。通勤帯の上野東京ライングリーン車で辛うじて座れ、ここで朝食を摂りつつ自分の過去作を眺める。公園口から藝大への道も慣れたもんだ。

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▲集合場所は正門入ってすぐの広場。奥の建物が大学美術館。

15分ほど前に到着したが既に7割方集まっていた。各予備校で緩く固まって和やかな雰囲気。見知った先輩と話して緊張を殺す。8:20点呼。今年は85人が縦17人×5列に、立て札の前に並ばされそのまま10分ほど立たされる(トイレに行きたい人が行く)時間ののち、列ごとに助手さんの先導で正面の大学美術館へ。螺旋階段を上った3Fのホールが会場になる。

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▲会場イメージ。前で教授や助手が見守る。2日目は机の右にイーゼルが置かれるが、基本的に立って描いてれば周りは見える。カンニングという概念は事実上ない。周りを見て回るために十数回トイレに立ったという同級生もいる。

全てのパーテーションが取っ払われた大空間に机がひしめく。なるほど見通しが良い。暖房もまずまず効いている。床は透明なシートで保護されている。外での10分でも行けたが、敢えてのここでトイレ。机には配布物一式。問題だけ8:50になって配られる。何が遅れてるのか知らないが試験時間5分後ろ倒しのアナウンス。


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▲会場はふだんは展示場なので、卒業・修了作品展などの折には足を運んでみるといい。ただしパーテーションが無くなって人が居なくなると、空気感は全然変わってくる。

始め。問題に目を通した瞬間、誰もが驚いた。計算問題が無い。まあ僕は始まる前に裏から全部読めてたけど。双曲放物面(HPシェル)は元々知っていたし、前日に図形問題集で触れていたのでスッと理解。さして描き辛そうでもないし、ここは構成にじっくり1時間かけ、怠いほど飛躍を抑えた線形エスキースを書き残す。

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▲当日のエスキース再現。この入試で最初に書いた文が"遂に来たか双曲面ww"である、舐め腐った現役生。

さて画紙に移る。カンニングするものもないだろうに、10:30まで立つべからずという指示があったらしく立ったら注意されたので立膝で下書きする。全体のバランスが掴めずやりにくい。早く描き始めた奴ら全員形崩れろ。背景の黒を塗ったあたりで漸く30分。その後1時間で一通りのトーンとエッジを決める。

ラスト30分で影、映り込みとテクスチャの書き込み、細部の仕上げ。朝気持ち悪くなるほど菓子パンを詰め込んだのも虚しくお腹が空き始める。まあまあ完成といった所でフィニッシュ。真ん中の立体の奥行きがトーンとテクスチャに乗ってないのが心残り。帰って忘れないうちに、エスキースと構成の走り書きの再現をした。

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(感想を共有しながら上野まで歩いたショナビ面子はその後昼飯と予備校に行ったらしいが、疲れたし喉も痛かった僕は離脱。明日もあるのにみんな、元気かよ)

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▲のちの再現。影の形が間違っていることに気づくのは受かった後の話だったとさ。

 

3月7日〈総合表現〉

前日は21時就寝22時入眠1時覚醒2時入眠5時覚醒など定かではないが、意識と無意識の淵を彷徨い続けることn時間、とにかく同じ電車(グリーン車は座れなかった)で登校し、同じ段取りで入場。みな昨日より多少落ち着いている。気温5℃。寒い。並んで待つ謎の10分はずっと震えていた。

机上の配布物を確認したとき誰もが(2回目)。紙粘土だと?代わりにケント紙が無くなってないか焦ったが、ちゃんと3枚あったのでまあまあ。課題配布。(裏から)立方体を掘ると…なるほど粘土な気もするけど…(実際使ってみたがとても幾何形体を造形できる代物じゃない。スタディさせたさは伝わってきたが)

 

さあ本当の入試の始まり。今年の課題は後から思えば5年くらい前の自由度に回帰していた。最適解などどこ吹く風、原始的にNN(…ニューラルネットワーク。この辺は線形エスキース記事を参照)的な案出しをする。形に繋がりそう、と内向的外向的というベタな個性を採択、しかし結局始点のドローイングからほぼ離れない終点となった。こう要請が無いと発展のしようがないのだ。

これでいいのか?何度も手が止まりながら、昨日よろしく飛躍のない線形プロセス、というよりただ意味もなく模型の数だけを稼いだのだ。決定案で粘土を使用したが、フニャフニャボテボテ。何だこれは。まるで形にならない。もういい、微調整は絵でしよう。と構図決めに入ろうとしたところで12:00。

昼食はまた寒い外に列で連れ出され、中央棟の第3講義室で。仲良い先輩と隣になるが、一言も交わさず。10分ごろ着いて30分に戻るので、実質20分。暇はない。窓の外を凝視しながら、文章は一人称×2で物語調にしようと思い至る。

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▲去年はこちらの第1講義室だったらしい?第3は2階の、これより明るく狭い部屋。

戻って45分、予定調和的な下書きを始める。B2B3を決めぬまま文章を書くのは初めてだ。執筆は血糖値が上がって進まず、やっとこさ書き終えたのが14:00。そこから戻って構図決めをして机上を整理して14:45。残り2h15mでB2B3白紙はふつう絶望だが、B2が9割塗り絵なのでいける!鍛え抜かれた手の速さに自信ニキは全てを解放して猛然と8Bを振るう。

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林、砂浜、海。この辺りの有機的鳥瞰はもはや思考停止である。立方体も最少手の白抜きで示し、45分でB3完成。

B2は形なんて無い、とにかく体重を乗せて色鉛筆を押し付けては体重を乗せて擦りまくる。ここでの色調は前日に見たpinterestのとあるドローイングそのままである。引き出し大事。

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▲極限のフロー状態で描き切った本番のB2は、だらだら2時間以上かけたこの再現より数段洗練されていた記憶。一緒に受かった同期も同じようなこと言ってた。

限界彩度に達し、ゴツゴツ感も描ききって10分余らせる。軽くこんなもんよ。お得意のチャコペントンネルに、前からしたかった1視点切断分割。B3は環境描写、A4は詩調。思えば持っているネタは存分にぶち込めた。ここまできたらやり切ろう、余った草案用紙に振り返りと自己アピールを書き殴り、終幕。

片付けの時間には余裕がある。意地で材料を使い切った5つものスタディと、縦に繋げた長〜いエスキースをディスプレイ。ここまで埋まった机を教授が見逃さないはずがない。

 

すっかり馴染んだ浪人グループでお好み焼き。予備校に問題再現を送りつけ、感想を吐き合う。僕は2日とも終始「見せ方」にコミットした出来であった。総合表現の本質的発展の無さがただ口惜しい(僕の練習していた"総合表現"は全くできなかった)が、不純に猥雑化するよりマシだと、先輩と口を揃える。

 

 

*配布品詳細

〈空間構成〉

B3:TMKポスター紙

〈総合表現〉

B2:白象紙(重い木の板に幅広の茶テープで水張り)

B3:白象紙(わりと厚手)

ケント紙:4切ではなくてちゃんとB3(364×515)なので注意

紙粘土:のび〜るエアクレイLL(200g)×2

スティックのり:赤いprittのミディアム

両面テープ:ナイスタック10mm

カッティングマット:品名不詳。目盛りなしの1cmグリッド、こげ茶色

スチール直尺:どれも同じやろ

〈共通〉

机:44cm×180cmくらいの長机

椅子:一般的なクッションパイプ椅子(いずれも業者の貸出品)

草案用A3コピー用紙:画紙同様、右下に名前欄がある

携帯封緘封筒:長型3号茶色

ゴミ入れビニル袋:透明のパリッとしたやつ

 

 

合格発表までの後日談。

8日にさっそく、閑散とした予備校に出向いて再現を描いた。自分の激闘をもう一度確かなモノとして起こす作業は優雅だった。そこで講師が、某F教授が"線形プロセスをやった奴がいた"と話題にしていたが君のことだろう、と教えてくれた。いや、その日のうちに見てるのかよ。

興奮の酔いは徐々に冷静な実感へと変わっていった。まあ、多分受かったでしょ…否、これを落とす大学ならもう行かなくていいんだ。僕は発表を待たずして上野に部屋を押さえていた。

3月13日。上野東京ラインに揺られながら、ああ受験票を忘れて出直したので12:00の開門には間に合いそうにないが、案外長閑だった心持ちも、東京駅を過ぎた辺りから波立ってきて、友よネタバレはやめろよ、雑踏に降り立ち、晴れた上野公園の不可解なパイロン迷路を横目に、木立からあの国道に抜ける、向かいから泣きじゃくる母子…俺は見に行くぞ。門は近づいて、遂に両脇を過ぎる、人は適度に捌けて、賑やかとは言えない不思議な賑わいの奥に、気だるいトランシーバーの審判が、白い長方形の残酷が、ゴシック体の人生が、、、

…その先の思い出はひとに話すものでもない。ま、自分で確かめてくれ。

 

平成30年度 東京藝術大学美術学部 合格発表 - YouTube

(大西)