藝大入試論考 建築科

  東京藝術大学美術学部建築科   合格者有志による入試情報・論考ポータル

藝大建築科に行くには?【美術予備校の世界】

藝大建築科に入りたい!!よし美術予備校に行こう!!

・・・・・・え?それってどんなとこ?種類は?そもそもいかなきゃダメなの??

 

大受験の世界にようこそ!
あなたの知らない「美術予備校の世界」をご紹介します。

・・・・・・って、今年度の受験生向けには遅すぎるか!?いや、夏期講習前だからまだ役立つはず!と信じて。
(ピザ)

0.美術予備校とは何か?

東京藝術大学をはじめとする全国の美術系大学を志した者たちにむけて、この世界には美大受験対策に特化した「美術予備校」が存在している。(所謂絵画教室ではない)

絵画教室の目標が「絵がうまくなること」なら、美術予備校の目標は「藝大(美大)に合格すること」だ。

藝大、美大の実技入試には志望した大学・科によって様々な技術が求められるため、それを効率的に学ぶ場として、美大受験生の多くは美術予備校へと通うことが多い。

 

その中でもここ東京藝術大学 建築科が行う実技試験はやや特殊である。

「空間構成」「総合表現」

これら二つの課題を攻略するには、ほかの科とは違う「建築的なアプローチ」を身につけなければならない。

その受験対策には「藝大」の「建築科」の試験を知り尽くした(?)人々、つまりは藝大建築科の合格者に教わるのが最短ルートである。

その、"教わる場所"(・・・・・・の一つにはこのサイトやTwitterがあるわけだが、)
としてあるのが「美術予備校」なのだ。

1.美術予備校の特色とは?

美術予備校の特徴はいくつかある。

まずは「講師」。

大抵は東京藝大建築科の合格者が務める。現在大学に在籍中の学生講師をはじめ、建築家としても働いているような卒業生のプロ講師などが教えている予備校もある。

建築についてはほぼまっさらな受験生にとって、有識者に自分の絵を見てもらいながら直接指導してもらえることこそ、美術予備校の一番の魅力だ。

講評時に彼らから投げかけられる言葉は、受験生たちの「受験に対する考え方」を徐々に形づくっていく。その予備校の特色は講師によって示されるといっても過言ではない。

 

そして「参考作品」。

美術予備校は各々大量のアーカイブを保管しており、そのラインナップは予備校ごとに異なる。

受験生たちはそれを参考にしつつ、同じ予備校の出身者たちが積み上げてきた知恵を徐々に身につけることで、個々の作品作りへと繋げていく。その結果、予備校によって「作風」のようなものも生まれている。*1

 

最後に何より「同年代の受験生」の存在。

美術予備校に行けば、同じ東京藝大建築科を志望するライバルに出会える。僕は講師よりも、むしろ同期や浪人生の先輩との会話の中で学んだことも多かったと感じている。周囲の人との競い合いで自分のレベルを確認したり、互いの作品に意見をぶつけ合ったりする、そんな「受験の空気感」を味わえるのも美術予備校ならではだ。

2.建築科ってどんな授業をうけるの?

美術予備校の最終目標は「藝大に受かること」だ。

多くの予備校のカリキュラムは基礎から応用、入試へ発展するように組まれている。

そしてすでにあなたが「藝大」の「建築科」に決めたのならば、その学習カリキュラムは入試に沿うため、おおまかに次のようなものへと絞られてくる。

 

最初はいわゆる静物デッサンなどの「基礎課題」

絵画科やデザ科とは違い、単純な”絵のうまさ”だけでは決まらないのが建築科の試験だが、そうはいっても見る人に対し「空間」を伝えられなければいけないため、そのために必要となる程度の空間を描く技術(透視図法など)を学んでいく。

 

その後、立体構成や建築写生などの予備校独自の課題もはさみつつ、夏あたりからは入試課題の「空間構成」「総合表現」に特化した対策へと推移していく・・・

 

具体的な課題の内容や割合について各予備校ごとに細かな違いはあれど、課題の狙いに関しては大きな差はないだろう。↓

ある予備校の年間スケジュール

4月~6月 春季

課題:静物デッサン、建築写生

基礎力=デッサン力 である。

鉛筆の使い方から、パース、構図のとり方・・・云々

詳しくは↓

建築デッサン原論 カテゴリーの記事一覧 - 藝大入試論考 建築科

 

7月~8月 夏期講習期間

課題:構成デッサン(ムサビ系)、立体構成

夏後半からは→ 空間構成、総合表現

 

9月~11月 

課題:空間構成、総合表現

一部予備校ではこの時期に公開模試が開催される。
(例年受験生の1/3ほどが参加し、その中で順位付けもされる。)

 

12月~1月 センター試験期間

冬期講習もあるが、大抵は学科対策。

 

1月後半~3月 直前講習

センター明けから入試前日まで、朝から晩まで実技漬けの日々。

 

 3月6日、7日 建築学部入試本番

 

3.建築科の有名な美術予備校

まず、「藝大建築対策」を専門としたコースが設置されている美術予備校は、全国でも数限られており、なかでも例年合格者が在籍する大手美術予備校は、ほとんどが関東都市圏内に集中している。*2

 

以下、平成31年度の合格者15名がそれぞれ在籍していた予備校を、合格者数とともにリストアップする。

ここに紹介した予備校はどこもホームページからカリキュラムが閲覧できるし、パンフレットなどの資料も無料配布している。また、実際に授業を体験することもできるはずなので、気になった予備校には積極的に足を運んでみよう。

 

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※表記上の補足

本記事では「直前講習のとき在籍していた人数」を合格者数として表記した。(各予備校が発表している「合格者数」は、講習生も含んでいる場合が多い。夏期講習等で予備校を渡り歩く受験生はダブってカウントされることもあり、結果全部足し合わせると18人になっていたりする。)

模試情報や予備校の雰囲気などは合格者たちの知りうる範囲で記述した。

(ただ、ぶっちゃけ雰囲気というのは生徒・講師の入れ替わりで常に変化していくものだし、自分に合っているかは結局のところ人それぞれなので気休めの参考程度に。 )

 

河合塾美術研究所

通称:河合

H31年度 2名 合格

新宿校と名古屋校があり「新宿河合」と「名古屋河合」と別予備校として扱われる場合も多い。

基礎課題ではデッサン重視。授業中は比較的静かな雰囲気。

公開実技模試を毎年10月中旬に実施し、例年、他予備校生も集まる一大イベントである。

新宿校

http://art.kawai-juku.ac.jp/kanto/institution/sch/images/index_img_001.jpg

 

 名古屋校

http://art.kawai-juku.ac.jp/tokai/institution/sch/images/index_img_001.jpg

 

新宿美術学院

通称:シンビ

H31年度 2名 合格

色鉛筆での建写やオリジナルのプレゼンテーション課題等々、色々と個性的なカリキュラムを組んでいる模様。建築専攻は新宿校のみ。

シンビ建築科のホームページでは詳しいカリキュラムも紹介されているので必読。

https://www.art-shinbi.com/img/shinjyuku/access_photo.jpg

 

湘南美術学院

通称:ショナビ

H31年度 7名 合格

とにかくゆるーい雰囲気が特色。基礎課題では「建築写生」と「立体構成」を重点的に行う。

神奈川県外からも多くの受験生を集めるマンモス校ゆえ、校内模試など年内数多くのイベントを実施。

 

http://shonabi.jp/images/19yy02.jpg?crc=4117493750

 

◆ふなばし美術学院

通称:ふなび

H31年度 1名 合格

アットホームで少数精鋭。(雰囲気はショナビとも似てるらしい?)

例年は年に2回ショナビと合同でコンクールを開催している。千葉県船橋市

http://funabi.ac.jp/juken/attraction/images/envi-img07.jpg

 

 

すいどーばた美術学院

通称:どばた

H31年度 1名 合格

エスキース中におしゃべりできたりするくらいのゆるい雰囲気。池袋。

毎年10月に公開模試「全国公開実技コンクール」を開催する。受験生向けの、どばた建築ホームページのQ&Aページも参考に。

https://suidobata.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2016/12/shisetsu01-4gokan.jpg

 

代々木ゼミナール造形学校

通称:代ゼミ

H31年度 1名 合格

建築科の歴史は長く、総合表現以前は代ゼミ一強の時代だったと言われる。
模試等にはなかなか現れないガラパゴス予備校。原宿駅前。

https://art.yozemi.ac.jp/access/access_main.jpg

 

御茶の水美術学院

通称:オチャビ

H31年度 1名 合格

提案重視型の「総合表現」に強く、ここの予備校出身者は個性派ぞろい。(らしい)

御茶ノ水駿台の近く。

https://gakuin.ochabi.ac.jp/assets/uploads/_img/news/new_det_img_116.jpg

 

余談~美術予備校に通うべきか~

「確実に合格するためには美術予備校に通うべきか?」

今そう聞かれたら、「YES」と答えざるを得ない。

事実、予備校生と、予備校に通わない受験生の間には、受け取ることのできる情報量に圧倒的な差がある。参考作品、合格者の傾向等々、各予備校が積み上げてきたデータ量と、実際に同年代のライバルたちが切磋琢磨しあうなかでの経験値。それら全てを非予備校生が知ることは難しい

この情報量の差を少しでも埋めるべく誕生したのがこの「藝大入試論考」なわけだが、予備校で得られる学びが大きいのは事実だ。

では「美術予備校に通えば合格するか?」と言うと話は別だ。

いま、藝大受験の世界において「美術予備校」が切っても切り離せない関係になっている。結果、それぞれの「予備校」では、各所で作る対策課題と積み重ねてきた参考作品に染められることで、図らずともそれぞれの場で伝統的な技法が生まれたり、定石的なアプローチができたりしている。

こうなったのはいたって自然なことであるが、、、はたしてそれは藝大が求めている受験の形なのだろうか。

いうなれば、本来「通わない」という選択肢もアリなのだということを忘れてはならないと思う。

もし「藝大受験するから予備校に行かなきゃ!」って思考になっているのであれば、落ち着いてその是非を一度考えてみてほしい。

もちろん、美術予備校に通うこと自体は否定しない

筆者自身も美術予備校に通ってよかったと思っているし、結果合格もできてそのサポートをしていただいた講師には感謝しきれない。予備校でしか得られない経験もたくさんあったと思う。

ただ、我々が問題視しているのは「美術予備校に通うこと」ではなく「美術予備校に染まること」なのだ。有名美術予備校に入れば受かるわけではない。参考作品と同じ絵を描けば受かるわけではない。

 

入試論考としては、読者諸君には予備校が作り上げた作風という名の「形式」に安易に染まらない強さをもった受験生に育ってほしいとただ願うばかりである。

 

 まとめ

「藝大受験を研究するにはまず美術予備校の研究から」
ということで美術予備校の情報各種をまとめてみた。

実際こんな数ページのネット記事に収まってしまうほどに、この藝大建築受験界隈は恐ろしく狭い

その中でも、各予備校ごとにカリキュラムに色があり、少しずつ作風も違う。百聞は一見に如かず。まずは実際に足を運び「藝大受験」という世界の空気を体感しよう。

そして、今はまだ予備校に通っていない受験生も、もう通い始めている受験生も、自分にとって最適な学びの場所を見出してほしい。

 

 

*1:予備校が生んだ作風の違いについての考察は今後詳しく記事化したいとも考えているが、個人の主観でどこまで語っていいのか迷いどころなので検討中。

*2:予備校が関東に集中しているというだけで、地方からの合格者も毎年多数いる。レギュラー授業は取らずに直前講習だけ予備校の建築科に通って受かるケースも。