全ての藝大建築浪人生へ【日常編】
はじめに
現役、一浪、多浪とバリエーション豊かな受験経験を持つライターたちが、時間を持て余しがちな浪人期間の過ごし方を読者と共に考える記事です。
この記事本文にはライター(フルーツ)の浪人時代の具体的な行動と、その根底にある抽象的な思考を綴っていきます。
受験生の読者の方は、現在の日々の過ごし方とその中で感じたことやライターへの質問などをこの記事のコメント欄、あるいはTwitterのDM・質問箱に投稿してください。あなたへのアドバイスを優秀なライターたちと共に導き出し、返信します。
受験生の過ごし方に正解はありませんが、人それぞれの最適解は確実に存在するでしょう。この記事を通して自分なりの最適解へ向かう一歩を踏み出しましょう。
- 浪人は人生の無駄?
浪人生––––––––高校生でも大学生でもない、子供とも大人とも言えない年齢の、どこに属する訳でもないが決して自立できない、若者たち。その地に足つかぬ存在の不安定さに「受験に失敗した」という呵責は容赦なくのしかかる。
でも、そう悲観的に捉える必要は無い。
浪人は時間の浪費。そう思っているのなら、それは非常に勿体のないことである。
まず藝大を目指す浪人たちが知るべきなのは、浪人期間の有用性である。何にも束縛されずに、ただ自分の純粋な興味と向き合うことができる期間に得るものは多い。そこで培った経験は入試に直結するだけでなく、今後の人生に活きてくる。
次に知るべきは、その過ごし方を真剣に考える必要があるということである。事実として、藝大の試験に合格最低点の基準は存在しない。また、一般大学のように履修範囲が定められていることもない。自分自身で自らに必要な努力を見定め、それを実行するしかないのだ。
「与えられた一年の白紙期間に任意の操作を加え、独創的な体験を創造せよ」。
試験になぞらえて言えば、総合表現はすでに始まっているのである。
現役時代、初めての入試を終え不合格を確信した私はその翌日の朝まで逆転裁判をプレイした後、高校のカリキュラムに束縛されて叶わなかった様々を紙に書き殴り、一年かけてそれをひとつずつ達成していくことにした。(もちろん合格の逆転劇は起こらなかったが……。)
目次
スケッチ
一本一本の線を引きながら、その意味を考える。何の目的でこの一枚のスケッチを描いているのだろう。「楽しいから」、それはあるが決してそれだけではない。そう、
『スケッチは真髄である』。
何の真髄かって?なんとなく言ってみたかっただけで説明は後付けだ!
《超スーパーわかりやすい説明》
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スケッチとはあくまでモノを観察するための一つの手段だ。完成した絵はさして重要ではない。
自分の描いたものと実物との差異を発見し修正していく過程こそがスケッチの本質で、その行為を重ねるほどに実物に対する認識は細部まで洗練されていく。
静物デッサンと対比的に捉えると分かりやすいだろう。
静物デッサンではモノの"表面(テクスチャー)"を追う。床に落ちる僅かな明暗の機微や、素材による質感の違い、陰影が包摂する奥行きなど、モノの表面が見せるのは様々な光の表情である。
それらを鉛筆の濃淡で画用紙に「再現する」という行為を通して、モノの細部に目を凝らし、同時に全体をとりまく光の印象をつかみ取る。
対して、スケッチで追うのは表面同士の見かけ上の境界、"稜線"である。稜線は本来実線として存在しない。予備校の静物デッサンで稜線が残っていると大体、講師らしき人に注意される。
目に見える光の描写を捨て、見えない稜線を写しとるスケッチが鮮明に見せてくれるのは、モノのプロポーション(比率)だ。
目線の高さに対する屋根の高さ、壁の厚みに対する奥行き、道幅と人の歩幅の関係……そう、比率はモノとモノの関係性を示してくれる。それは空間を支配する秩序と言っても過言ではない。
スケッチをする間、最も気を配り修正を重ねるのが実物のプロポーションの再現だ。自分の手元のスケッチと実物の印象のズレを見つける度に、プロポーションに対する認識の甘さを突きつけられる。しかしそれを乗り越えた先に、より正確にプロポーションを見る目が身につくというものなのだろう。
スケッチを何枚も描くことで自分の目が磨かれていくのは分かったが、それがこの入試と関係があるというのか!
それがありよりのあり、大アリなのである。
参考リンク
再び静物デッサンとの対比に話を戻そう。
静物デッサンで培った"表面を再現する技術"は、言うまでもなく空間構成や総合表現のB2、B3で活きてくる。2016年度の総合表現のように光そのものが題材として扱われることもあるほどだ。デッサン力の高さが光る者たちが自然と教授の目を引く。
しかし、デッサン力は重要そうに見えて、ぜーんぜん重要ではない。答えは単純、建築家はお絵かきをする職業ではないからだ!!*1
建築家の職能の全ては、その設計プロセスに帰結する。
もうお分かりだろう。そう、エスキースである。
スケッチに養われた「プロポーション感覚」、何百枚と描いた果ての「洗練された一線」。それらの全ては、エスキースにて結実する。
エスキースの作業は、言わばほぼ全てがプロポーションの検討である。より優雅に見えるように、より人に寄り添うように……など、建築の歴史はプロポーションの探求と読み換えることもできる。
受験生はその一端を担う新たな建築学徒として、その資質を求められている。*2
それから、仮に優れたプロポーション感覚を持っていたとしてもそれを表現する術を持たなければ持ち腐れというものである。
自分の思い描く形態を、エスキース用紙にアウトプットして初めて比較検討が可能になる。
そのときに、スケッチで養われる正確な描線技術が必要になるのである。
例えば、空間構成で出題された立体の形をエスキースの段階で正確に描けていなければ構成を考えることなどとても出来ない。総合表現のエスキースで正確に形態を描き残していなければ、洗練された方向に進んでいるのか分からない。
深刻なのは、それらの力が不足していることに自分自身で気がつくのは非常に難しいということなのだ。
予備校の講師は基本的にエスキースまで見ない。あくまで提出された絵だけを見て、講評をする。構図がどうとか、影の描写がどうとか……言っていることに間違いは無いのだが、はっきり言ってそれらは大した問題ではない。良いものと悪いものが分かったところで、良いものを創造する術を身につけなければ何の意味も無い。ただの批評家になってしまう。*3
それらの問題はおおよそスケッチ力を磨くことで解決する。結局、予備校のカリキュラムに捉われず(囚われず)自分自身の手で力を磨くほか無いのだ。
入試が現行の形式になる以前、受験生に与えられた入試課題として「建築写生」なるものがあった。
建築写生では受験生のインプットとアウトプットの能力が見定められていたという。ここで言うインプット能力とはプロポーションを見る目、アウトプット能力とは描画技術のことである。
それはつまり、スケッチ力に他ならない。受験生が求められる素質というのは昔から今まで通じて本質的には変わっていないのだ。
改めて言おう。藝大受験において『スケッチは真髄である』と。
ここまでスケッチの重要性を説いてきたが、まだ10項目あるうちの1項目だということに俺は絶望すら覚えている。
それでは、スケッチをするためにはどんな場所に行くのが良いのか。ライターたちが実際に行った場所の記録を通して「散策」へ向かうとしよう!
ライター:(フルーツ)
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未定。
【立】立体構成のはなし
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【特集】2018夏期講習まとめ
夏だ〜〜〜!
受験生の夏はアツい。各予備校が講習を詰め込み、入試直前期並みにまとまった期間実技漬けの日々を送ることになるだろう。普段学校で忙しい現役生も、ここぞとばかり打ち込んで化けるタイミングだ。下半期の努力の方向性を定めるという意味では、"受験の天王山"も強ち誇張ではないだろう。
予備校のカリキュラムが、本格的に受験課題にシフトし始めるのもこの夏期講習である。予備校に通っていない人は、ぜひ大手の所でまとまった講習を受けてみるといい。ほかの受験生が何をしているかが掴めるだろう。また、既に大手予備校に通っている人も、他予備校の視察に行くことを勧める。自分の予備校とは違う指導内容や風潮を味わうことで、より広い枠組みから自分の立ち位置を考えられるようになるからだ。各所秘蔵の参考作品を見に行くだけでも価値がある。もしかしたら、今の予備校より合っていると感じるかも知れない。今年の合格者を見ても、浪人して予備校を変えた人、季節講習はフルに他予備校にいた人、そうでなくても模試や数日の講習を見逃さず、地方から宿を借りてでも積極的に外部に足を運んだ人が多い。
やや時期が遅れたたが、以下に各予備校の夏期講習トップページをまとめた(カッコ内は今年の最終在籍合格者数)。各々よく考えて、よく動いて、最高効率の夏を過ごしてほしい。作業だけに終始せぬよう、適度に休日をとって思考をリフレッシュすることもまた要である。
◇
湘南美術学院(5)
もともと立体と想定デッサンだけだったが去年は後半2ターム食い込んだ受験課題、今年は1ターム後退。"基礎力"を崇めるショナビは原点回帰の機運か。さらに従来セットだった夜の講座は(受験生の体力を考えてか)一掃されている。満を時して受験課題の8/20〜25のタームはなぜか他予備校一つとも被っていないので、皆さん建築科最強予備校に足を運んでみては。ゆるゆるの雰囲気と大量の参作が、夏前半で疲れたあなたをお出迎え。
ふなばし美術学院(3)
今年躍進、千葉のダークホースは個性的なカリキュラム…静物・室内・建写と各種デッサンを通して描写を究めた上で最終日に総合表現、という6日セットが3ターム。実際のモノを描くということに足をつけながら実直に想定課題を見据える、飽きにくく合理的な組み立てと言える。
代ゼミ造形学校(2)
建築科伝統の名門予備校は、昼総合表現+夜空間構成の受験課題ガチコース2週に挟まれた、"思考を鍛える造形的課題"2週が特徴的。立体スタディ重視の機運のなか、始めと終わりでエスキス力の底上げを実感できそうなカリキュラムだ。ただ、7/16〜昼って…現役誰が行けるの…。場所が近ければ、夜だけ行くのもアリ。
河合塾美術研究所 新宿校(1)
名古屋校はデッサン〜空間構成1週、総合表現1週の控えめで正統派なカリキュラム。新宿校はそこに受験課題がやや押し負けて選択で立体構成が入るのと、初めに初心者用基礎デッサンが1週。8/26〜28のこれまた被りのない最終タームはデモストを呼んで実践的な受験課題、他予備校生も狙い目の3日間。
御茶の水美術学院(1)
名古屋河合に似て、各種デッサン1週+受験課題1週と控えめ。その中で総合表現では2回デモストが来るそうで、密度の高い講習になりそうだ。
すいどーばた美術学院(1)
1週目で立体〜総合表現、2週目ではドローイング〜建写。2週とも終わり2日にくっつく「建物見学」なるカリキュラムが目を惹く。素材と造形に触れたのち、実際の建築に立ち返ってそれを描くことを考える、これはこれで合理的な組み立て。
新宿美術学院(0だが平年1〜)
去年の反動か今年は萎んだが、こちらも大手。デッサンや写生を挟みつつ、立体+総合表現で造形力を鍛える3週間。
◇
おまけで、講習期間を一覧できるカレンダーを作った。線一本が1ターム(登録単位)。予備校を股にかけるときの参考にしてほしい。
(大西)