藝大入試論考 建築科

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建築科入試概要

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藝大建築科、興味あるかも…でも今まで勉強しかしてこなかった拙者/それがしでも勝機あるの?藝大って東大より難関で、天才しか入れないとこでしょ?

ここではそんな都市伝説しか知らない一般中高生にむけて、ゼロから藝大建築科入試の全容を概観してみたい。

 

 

0.規格

試験内容に行く前に、まずは入試の規格を確認しておこう。藝大建築科の定員は15人。え?桁は間違えていない。さらに言えば例年合格者の半数以上は浪人生である。

狭き門なのは確かである。全校生徒1000人足らずの藝大美術学部の中でも最も定員が少ないのがこの建築科だ。しかし少数⇒精鋭とは限らない。倍率は8科中6位の6倍ぽっきりだし半分くらいは記念受験。建築を志す毎年数万人の受験生のうち藝大を受けるのは100人もいない。建築の中での藝大も、藝大の中での建築もとんだマイナーリーグである。メジャーで戦おうとしていた君にチャンスがないはずがない。

ところでこの記事を読んでいる中に本当に初心者がいるのだろうか?そうなるためには相当に検索順位を上げないと…

 

1.センター試験

では実際の試験内容に触れていこう。美大なので当然お絵かきの試験が本丸なのだが、一応センター試験も受けさせられる。科によっては鉛筆を転がすだけでいいのだが、こと藝大建築科はそうは言ってられない。美大では異例の5教科6科目(英国数IAIIB+地歴1+基礎なし理科1)必須、それでいて合格者平均得点率は7割強。軽くMARCH。art(文系)かつscience(理系)である建築が幅広い基礎教養を求めていることの表れである。

別にボーダーが存在するわけではない。6割かそこらで受かる多浪生が毎年数人いる。しかし彼らは実技で盤石の成果を残した。かたわら、明らかに見劣りする実技で入ってくる現役生が、これまた毎年数人いる。そう、彼らは共通してセンターが高い。中には9.5割なんていうツワモノ(理IIIか)もいて、センターが一番の人はよほど実技が不誠実でない限り受かるという伝説もあったりする。15人は色々な個性で取られるが、言ってしまえばこれが一番簡単な(×容易な)藝大への入り方である。

 

2.実技試験

前期国立で最も遅い3月初旬、2日間にわたって実技試験が行われる。これが一般大学で言うところの2次試験で、言わずもがな本戦である。建築科の種目は以下の二つであるが、これがま〜あ面白い。僕は日本の大学の入試問題として最高のものだと宣って憚らない。語り出すとサイトが一つできてしまうのだ。手っ取り早く、公式の参考作品ページを見てほしい。リンク先の問題PDFにも目を通すように。補足して解説を行う。

2-1 空間構成

前菜。1日目、製作時間は3時間。例年、始めに数問図学問題がある(※H30年度はなんとこれが無かったのだが!)。計算は初等幾何レベルだが、ある程度の空間把握能力が求められる。パズルみたいで得意な人は楽しいやつ。それでもって導き出された幾何的な立体を、想像で、残りの時間を使って画用紙に鉛筆で描く。その際、地面のある空間内に自由に構成(できない設問の年もあるが)して、構図も考える。なので描く時間は実質1.5時間〜2時間ほど。一見して空間を把握できるような基礎的な描写力はもちろん、与えられた立体の特徴を捉えて効果的に空間・画面に出力する構想力が求められる。空間を考えるにあたってのリテラシーの試験。

2-2 総合表現

メインディッシュ。2日目、昼休憩をまたいで7時間15分。イメージや断面図、素材の寸法など、毎年多様な指定の下で、光や気象、人の個性などこれまた多様なコンセプトに沿って、「空間」を構想する。これが本当に複雑で、そして自由である。

やることはたくさんある。一つは絵を描くこと。B3には俯瞰の全体像を鉛筆で描く。自分の作った立体の形状をクリアに伝達し、さらに設定することが慣例となっている敷地の周辺環境との関わりを示す。B2にはその空間内から見た特徴的な場面を色鉛筆も使って描く。立体や環境が訪れる人にとってどのように現前するか、スケール感や光はもちろん、場を統制する雰囲気や情景を、写実を超えた作為的なドローイングで豊かに魅せる。加えて、400字程度の文章も重要な提出物だ。ビジュアルを補う観念的な情報や、構想を下支えするコンセプトを言語化して、相応しい文体と構成で訴える。

そしてこれら正式の提出物に加えて、いま一つ大事なアピールの場がある。A3コピー用紙3枚と立体スタディで残すエスキース(案練り〜下書き)である。第一線の建築家でもある採点者の教授たちの中には、成果物よりこのエスキースを重視する人もいるという。成果物の空間は、言ってしまえば課題設定の偶然と厳しい時間的制約に暫定されるが、それに向かう構想の道筋には絶対的に設計者としての資質が表れるからだろう。建築とは空間そのものより、空間体験を作る営みなのである、とすると、まさにエスキースこそが建築の本質であり、確実な入試対策の本筋でもある。

総合表現という試験には、君たちのこれまでの人生の全てが活かされると言っても過言ではない。幼少期にこびりついた強烈な感覚、日常の些細な人間関係の喘鳴、受験数日前に見た写真の色彩⋯それらの偏在と卓越は潜在的な個性となり、その自覚的導出の洗練が独創性となって発露する。ここをもって建築とは生き方であり、総合表現とは人生なのだ。

 

3.調査書

多くの大学では調査書の提出は事務的な手続きにすぎないが、これまた藝大ではそうとも言い切れない。選抜要項によれば、

入学者の選抜は,センター試験,実技検査,出身学校長から提出された調査書の各資料を総合して判定する.

とある。大事なのは、武蔵美多摩美であれば実技が数百点満点で採点されセンターと合わせて高い順、といくところ、このイキリ国立大学は絵に点数などつけない*ということ。これは入試全体がAO入試のような印象戦になることを意味する。「総合的に判定し」と言うからには調査書も見ているんだろう。高校時代にデザイン系の賞や資格(インテリアコーディネーターとか)を取っておけば、早い時期から動かざる印象点を積むことができるかもしれない。僕は夏前にコンペで全国一をとったりネタ団体に所属したりしていたが、そういえば高校を出ていなかったので調査書に書けず、仕方なく総合表現のエスキースの裏に書き殴った。

※一応成績開示でA〜Cの評価は降りるのだが、これは少なくとも合否判断の現場で使われているとは考えにくい(選抜後に予定調和的につけている説もある)。

 

総論

ここまでの2500文字を1行にすると、重要なのはセンターとエスキースである。どちらかが飛び抜けているだけでも良いが、いずれにせよ建築科は、いわゆる藝大らしい小手先の職人芸で受かる科ではない。建築科は考えて受かる科である。勉強コースで培った学力ないし情報処理能力は、そのままアドバンテージとして活きてくるだろう。そして、やれることの可能性が異常に広い分、個性の打ち立て方は無限にある。考えて対策をすれば短期間で最も合格確実性を高められる科でもあるだろう。実際美術転向から半年〜一年で受かってきた人も多い。

絵を描くこと、手を動かすことが苦でさえなければ、受験勉強は楽しいはずだ。自分を信じて、疑うことによって信じて。勝ち得た問題解決に対する姿勢は、その後に亘ってあなたの根幹を成すだろう。

ようこそ、建築科へ。


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(大西)