藝大入試論考 建築科

  東京藝術大学美術学部建築科   合格者有志による入試情報・論考ポータル

藝大建築科ってどんなところ?

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毎年2,3万人の中高生が、なりたい職業に「建築家」を挙げているらしい。

めざすは一級建築士の資格。そのためにはまず大学を卒業しなきゃいけない。建築を学ぶなら、理系で工学部のある…

 

ちょっと待ったーーー!!!!(大声)

 

美術系の建築学というのをご存知だろうか?普通に義務教育のレールの上を走っていると気づく機会もないが、建築学科というのは美大にもある。建築の大学を調べればわかるが、美大の最高峰たる東京藝術大学美術学部には堂々と建築科の札が掲げられているし、私立でも多摩美術大学(環境デザイン学科)や武蔵野美術大学(建築学科)など主要な美大には建築系の学科が置かれているだろう。

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なぜ美大に建築科がある*のか?

それは、建築がサイエンスである以前にアートであるから。人のための空間を人が考え、人が形にする。全ての建築には有機的な創発のプロセスがある。そこで第一義的に問題になるのは、空間に直接的に影響を与えるスケール・形態などの視覚的なデザイン=意匠である。美大の建築科では、一年生からこの意匠設計を専門に*建築を学ぶことができる。

※1.海外の大学では、建築が理系より芸術系に属するのは一般的な話。

※2.もちろん構造・設備の先生もいるよ!

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ところで、こうしてそれっぽく間に挟んである建築の写真だが、すべて藝大出身者が設計を担当した建築である。冒頭の日テレ本社に東京都庁舎、シドニーオペラハウスなんかにも…関わっている建築を挙げればキリがない。人でいうと、吉村順三に清家清、最近だと乾久美子石上純也なんかが卒業生、北川原温や中山英之はさらに教授として教えている!1学年15人(現在)という圧倒的少輩出量ながら、東大、東工、横国と並び称される、日本の建築の歴史を引っ張ってきた実績のある学科なんである。

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さて、ここまで「建築を学びたい」が先行している状況向けの話だったが、逆に「美大に行きたい」から来て建築科を視野に入れるケースもあるだろう。実はぼく(大西)もこっちだ。次に、"美大の中での建築科"の話をしよう。

 

美大の学派はファインアートとデザインに大別されるが、デザインの名を冠する科も何だかんだファインっぽい世界観が強い。そこへ来ると建築科はゴリゴリのデザインである。扱うのはあくまで現実に根ざした事物。それは論理で共有され、論理で評価される。建築科では論理が作品だと言っていい。論理のないファインアートは幹のない花みたいなもので、宙を舞うひとひらは美しいかもしれないが、地べたをうめる有象無象に意味は与えられない…この脆さ空しさが解るならば、君はデザイン系である。

注意されたいのは、論理で統制されることは感性が死ぬことを意味しないということである。感性で捉えたものを言語に置き直すことが要なのであって、論理が先行している様では明らかにないのがまた、藝大建築科の絶妙なところである。

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それから。建築が扱うのは単なる建物ではない。何某は「全ては建築である」と言った。物質を伴う全ての構造、人間を巻き込むあらゆる体験、それらが混然一体と絡まり合ったところに建築の空間が、その世界観が結晶する。僕が志望をデザイン科と迷っていたときに予備校の主任に印象的なことを教わった──デザイン⊃建築ではなく、建築⊃デザインなのだと。

 

21世紀。AIやBIが人間に人間性を解放し、芸術が汎化する。化学が構造の壁を無くし、CADが形態の壁を無くし、3Dプリントが実装の壁を無くす。VRが空間体験を拡張し、5Gはもはや空間を伝送する…そう、すべてはここに集結する。

藝大の、建築科。いま一番キテる大学の一番キテる学科だと思うのは、僕だけだろうか?

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(大西)