藝大入試論考 建築科

  東京藝術大学美術学部建築科   合格者有志による入試情報・論考ポータル

公開実技模試 第2回 総合表現

<概要>

 東京藝術大学建築科の入試を想定したインターネット公開模試です。今年度合格したライターによる予測分析が反映された出題と、合格再現作品の分析に基づく本番に忠実な採点基準での講評が行われます。

 

<日時>

試験時間:11/14(水)~11/18(日)のうち任意の7時間15分(目安)

提出期間:11/14(水)〜11/18(日)

講評期間:11/19(月)

 

<提出方法>

エスキース用紙・立体スタディ・解答用紙を撮影し、ハッシュタグ『#藝大建築模試』をつけて提出期間内にツイートしてください。

注:藝大入試論考建築科アカウントにてRTするので公開アカウントを用いてください。

 

<講評形式>

提出された全ての解答に対して引用RTにて講評を送ります。

評価はA,B+,B,Cの4段階です。

 

 

<持ち物>

解答用B3判TMK紙 1枚

解答用B2判白象紙(水張り)1枚
エスキース用A3版コピー用紙 3枚
鉛筆(描画用)

色鉛筆(描画用)
消しゴム
三角定規(30cm程度一組)
カッターナイフ
はさみ

スタディ用粘土 400g程度

スタディ用透明ビニール板 B5×3枚程度

スタディ用ケント紙 B3×3枚程度

ヘラ、タコ糸 一組

スティックのり

両面テープ(10mm幅)

カッティングマット(A2判)

ティール定規(30cm, 60cm)

 

注:今回の模試では受験生の負担を考慮し、必要な解像度を表現できる範囲で解答用紙の大きさを所定のものから縮小することも認めます。試験時間も各々の裁量で調整してください。

 

 

 <試験問題>

第2回[総合表現]の模擬試験を開始します。試験時間は7時間15分です。

注:以下のリンクを押すと試験問題を表示します。準備を整えてから始めてください。

試験問題を解く

 

 

試験期間は終了しました。

リアルタイム講評のようす↓

 

 

公開実技模試 第1回 空間構成

<概要>

 東京藝術大学建築科の入試を想定したインターネット公開模試です。今年度合格したライターによる予測分析が反映された出題と、合格再現作品の分析に基づく本番に忠実な採点基準での講評が行われます。

 

<日時>

試験時間:11/7 9:00~11/11 24:00のうち任意の3時間

提出期間:11/7 12:00~11/11 24:00

講評期間:11/12

 

<提出方法>

エスキース用紙・解答用紙を撮影し、ハッシュタグ『#藝大建築模試』をつけて提出期間内にツイートしてください。

注:藝大入試論考建築科アカウントにてRTするので公開アカウントを用いてください。

 

<講評形式>

提出された全ての解答に対して引用RTにて講評を送ります。

評価はA+,A,B+,B,Cの5段階です。

 

<持ち物>

  1.  解答用B3版TMK紙 1枚
  2. エスキース用A3版コピー用紙 3枚
  3. 鉛筆(描画用)
  4. 消しゴム
  5. 三角定規(30cm程度一組)
  6. カッターナイフ
  7. はさみ

 

 <試験問題>

第1回 空間構成の模擬試験を開始します。試験時間は3時間です。

注:以下のリンクを押すと試験問題を表示します。準備を整えてから始めてください。

試験問題を開く

 

 

 ◇

試験期間は終了しました。

リアルタイム講評のようす↓

 

 

(大西)流・線形エスキース

平成29年12月。

河合実技模試で渾身のデコンストラクションにC+Cを叩きつけられた男は、自室の机で独り思いつめていた。僕の作品は僕なりに誠実なんだ。どうしてみんな、それを解ってくれないんだろう…?

その晩芽生えたひとつのエスキースのアイデアが、間もなく全てを飲み込み、のちに前代未聞の“形式受かり”を具現化することとなる───

 

あーどうも、(大西)です。日頃Twitterエスキースこそ入試の本質だ”と散々説法しておきながら、具体的なことには全く踏み込めていなくてごめん。偏に僕の怠惰のせいだ。この時期になってエスキース関連の質問が増えてきたのは本懐だが、その念頭にあるべき一例を共有する必要がある。ここでは僕のエスキースを、各所に出してはいた本番の再現を引いてまず紹介し、それにまつわるとりとめのない考察を置いておきたい。

 

2.総合表現


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▲予備校寄贈用にエスキース・立体スタディ・文章をまとめたもの。

はじめに、問題を裏返すより前にやることがある。A3×3枚のエスキース用紙を全て半分に切ってA4×6枚にすることである。これを両面テープで縦に継ぎ足しながらエスキースを進め、最終的には巻物のようなエスキース用紙ができあがる。

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▲本来の形状。壁に貼りやすい

i.オリエンテーション

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プロトタイピングを発進するに先だって、コンセプトの大枠の方向性を定める段階。A4×1枚分ぐらい。

まず問題文を熟読して鍵となる条件を要約し、脳に良さそうに丸で囲う。次に〈とりあえずの理念〉と題し、諸条件をできるだけシンプルに満たすような(一石二鳥、三鳥な)解を求める。それが非自明な場合は、核となる問いを立ててそれに対する応答の全選択肢を洗い出して批判を与えるなどの出発がある。本番のこれはあまり良くないパターンで、条件に優先順位をつけたまではいいが、結局思いつきの案出しから出発している。全選択肢を出せ(るタイプの問いじゃ)ないと、妥当性の担保が揺らぐのだ。

ここは唯一NNの光る場面でもある。周囲の受験生の出方も予想しつつ、20〜30分かけて慎重に自分の方向性を見極めよう。慣れるとその後のプロトタイピングの伸びしろとかも見通せるから、ある程度恣意的に検証作業を操作するのがプロのやり口である。

 

ii.プロトタイピング

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大枠のコンセプトをもとに、立体スタディとそれに対するフィードバックを反復することによって案の改善を重ねていく、このエスキースのメイン・プロセス。A4×1〜2.5枚分ぐらい。

エスキースを「No.○」と線引きし、それと対応した立体スタディを作る。与えられたケント紙を切り出し、まずは全条件を満たす最もシンプルな模型を作る(いきなり全条件が難しい場合は数回に分けて反映していく)。そこからスタートすることで、以降どこで打ち切っても終了条件を満たすような土台が整う。ポイントとしては、模型には必ず敷地を敷くこと。敷地指定がある場合はそれも初期条件の一つだし、そうでなくともあとあと地形環境が同時に検討できたり、ケント紙3枚をうまく消費できたりする利点がある。また、切れ端で人(の身長)を作り、模型の要所に立たせること。これがヒューマンスケールからの乖離を防ぐ。

エスキース用紙に戻って、模型のNo.と対応した欄に案のフィードバックをする。まずは新たに与えた意図・操作を▶︎で箇条書きし、必要に応じて簡単なドローイングを添える。つぎに、それで満たした条件や見えてきた問題点を分析してで箇条書きし、次のバージョンで加えるべき操作の見当をつける。

このセットを何回も繰り返すことで、コンセプトをブレイクダウンし、造形や環境設定の密度を詰めていく。全条件に対してコンセプト-造形が十分スマートに洗練されたと思ったら、あとは微調整を加えて決定案とする。だいたいそれがNo.3〜6になる。本当はもっと重ねたいが、入試程度の条件量だとだいたいこの辺で収まってしまう。時間も厳しいしね。

 

iii.決定案

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敷地(単位はB3を6分割した正方形)を2〜4つ使ったデカめの模型を作り、エスキース用紙ではB3・B2の構図決め、A4(文章)の要点整理〜下書きを順に行う。A4×2〜2.5枚分ぐらい。

ここは特に変わったこともないが、ひとつだけ。各々には〈表現として〉という項目を設けていた。ただの図、ただの写実、ただの書き言葉を逸脱して、意図した要素を魅せる工夫を込める。ここで常軌を逸することも“(大西)流”のひとつの語り草だが、その裏にある妥当性の説明責任を果たしてはじめて評価の俎上に乗っていることを忘れてはならない。

 

ここまでをだいたい昼休みまでに終わらせられればペースとしては上々。飯を食いながら文章の枝葉を考えて、あとは(決定案の模型を見つつ)描くだけだ。

 

 

1.空間構成


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空間構成のエスキースは、A3×3枚配布されるうちの1枚しか使わない。それを縦に2等分し、左を計算問題、右を構図(構成)…に本来は使うのだが、本番は計算問題がない代わりに構成があったので、それを長くとった。

基本的には総合表現のエッセンシャル版で、形態の特徴や条件から構成の起点を定め、そこから2〜4回発展して打ち切る。

おわり。

 

 

0.補遺

以上に説明してきた一連の方法論について、作者として幾許かの思弁を添える。それにしても…こういう体系はあまりに多くの思考を巻き込んでいるから、ここから先はいくぶん取り留めのない読み物になってしまうことをお許し願いたい。一読して全てを把握するような記事ではないから、行ったり来たり、飛ばししたり日を開けたりしながら、少しずつ情報に浸透してほしい。

i.エスキースエスキース

そもそもこういうエスキースの方法論というものがいかにして生まれうるか、そのストーリーから。

多くの受験生は毎週何時間もエスキースというものをしながら、それをメタ的に最適化することをせず、最後まで“なんとなく”のまま受かったり落ちたりしていく。こういう“慣れ”によってしか進歩しない不毛な受験対策から抜け出すには、何ものにも縛られずエスキースをする時間をとることが全ての始点になった。

こんなことを言っておきながら僕自身は再エスキースは面倒でしていなかった。授業であれだけ考えたものをまたやり直すのは結構気力が要る。じゃあ何をやったかというと、問題から自分で作っていたのだ。ひとの作った問題は「こんなもの入試には出ない」と斥けられるが、自分の予想問題なら腰を据えて考えることができた。

ii.書式

実のところ、エスキース-ハッキングの夜明けはそれ以前から始まっていた。端緒はその書式であった。エスキース用紙を本番と同じA3×3枚でやり始めて、その道筋の紙面上での紆余曲折を問題視した。記述には自然な改行の幅というものがあり、A3を縦に使ってもまだ広すぎた。そこで数学の記述問題の解答欄における常套テクニックに倣って、始めはA3に縦に割り線を引いて2行にしていた。しかしページの終わりで区切れができるのがまだ美しくないと思い、スタディ用の両面テープを使って縦につなぎ直すことを考えた。これでようやく本質的なエスキース用紙ができた。

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入試では空前だったが、学部に入れば“巻物タイプ”のエスキースは比較的普通で、中には長さ20mとかの巻物を作る人もいるという。

iii.スタディ

つぎに、本番で専用の材料が与えられる立体スタディ(建築で模型を立てて検討することをスタディという)に目をつけた。僕の予備校では直前期になっても皆ほとんどケント紙というものを用意せず、本番もスタディ用具に手をつけなかった(そして落ちた)人が多い。藝大側は何らかの意図で用意しているのだから、十分に使わないのはもったいない、提出物を一つ捨てているようなものだと思った。

結局H30はケント紙に加えて紙粘土も用意されたのを見ても、公式のスタディ推しはすごい。

当初は単に「みんなのやらないことで攻めよう」というキャラ作りの動機だったが、すぐに色々な利点があることに気づいた。エスキースにおけるスタディの意義については10+1のこちらの記事が大いに参考になった。エスキース用紙におけるスケッチでも起こることを(フルーツ)が論じていた“アウトプットの他者化”について。ちなみに「とりあえずの理念」というタームはここから借用した。

iv.プロトタイピング

その頃、文字ベースの本をまともに読破できた試しがない僕が辛うじて読めた建築の本があった。藝大建築科准教授でもある建築家・藤村龍至による「プロトタイピング」である。ここで多くの言葉を要さず鮮明に示されていた超線形設計プロセス論の理念が、妙に一直線的な書式・ケント紙3枚を使い切れる立体スタディというふたつの点を繋ぎとめ、線にした。いや、線形にした。

ポイントは自分たちに「ジャンプしない、枝分かれしない、後戻りしない」というシンプルなルールを課すことである。いくつもの案をランダムに生成するのではなく、前後の結果をよく比較し、ひとつの案をじっくりと育てる。───『プロトタイピング』藤村龍至

要は前述した「模型を作ってはフィードバックと改善を繰り返し、単純なものから完成形に至る」という方法論なのだが、氏はこれを実際の建築設計でやっているのだ。これは来し方も先行きも見えない従来の創発的プロセスとは一線を画す、ひとえに社会的な合意形成に特化した、エスキースにおけるアルゴリズムのひとつの極致だと思う。

v.NNとアルゴリズム

話を理解するために、ひとつの対概念をインストールしたい。

イメージするならこれに似ている。

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僕はこの画像があまり好きじゃない。なぜなら直観的に面白いアイデアをポン!と生み出すのは、往々にしてここで“junior”の烙印を押されているやり方のほうだからだ。けれども、いいモノにたどり着くだけがdesignerの仕事ではない──僕たちはそのモノの「良さ」を可及的多数に共有しなければいけないのだ。それこそが“senior”がseniorたる理由なのである。

葛藤があるのは、やはりポン!と生まれたような直感的な魅力は諦めないといけないことである。例えば僕は巨大な正方形を山肌に沿わせただけの総合表現をしたことがあるけど、そんなものはどうやってもプロトタイピングの結果として在りえない。本番の作品なんか、これは特にひどい。掘り方の2個性…と問題文を読んで真っ先にイメージできる(気がする)ような、何の面白みもない構成だろう。じっさい試験会場でクソつまらない案に何時間も心折れそうになりながら、けれども、これでいいのだと心の中のバカボンにふんぞりかえらせていた。僕はH26のとある参作を思い出していた。


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これの作者もひとかどでは伝説のプロ受験生だったのだが、彼も結局突飛なことはしなかった。誰でもイメージできる(気がする)ようなことを、ただ実直にやってのけた。

だいたい教祖の藤村准教授だって、直感的に面白いものを建ててはいない。誰でもイメージできる(気がする)。けれどもあれには価値がある。それがひとつの最適解だという証明を、線形エスキースを遺したからだ。

書き遺せ。没になった選択肢も、前とほとんど変わらないスタディも、とにかく考えた証を遺すことだ。線形エスキースは案の面白さに対して最大効率ではなくても、ひとつの案が共有する思考量に対して確実に最大効率だ。

そして、それだけに安全だ。波が出ない。僕はNN的なエスキースを始めると、(それはだいたい課題の条件が少なすぎる時である)しばしば行き詰まって爆発し、自己満足回になるか筆を折り帰っていた。で、入試にそれが当たったら負け…そんなバカな話はない。エスキースを定式化すれば、直観やアイデアに依存しないぶん、光るものにはならなくても時間をかけただけの質が保証される。なぁに、背後にエスキースが光ってるんだ。

vi.表現の自由

エスキースで責任取ってるから大丈夫──このことを僕は当初からシニカルに捉えていた。つまり、説明なしでは異常と捉えられる表現を、エスキースによって合法化するのだ。それは提出物の末端においても、造形そのものにおいても…。

本番ではほとんど発揮されなかったが、もともと僕はシュールでデコンストラクション(脱構築)的な造形を好む作者だった。ところでその不可解さにつけて予備校での評価はうだつが上がらず、じゃあそれがいかに“成り立っている”かを共有してやろう、というのが線形エスキース開発の裏の思惑であった。(結局エスキースを見ない講師からの評価は最後まで変わらなかった(3軍とか言われていた)ので、僕は講評を聴くのをやめた。)

それに、NNを捨てることが案の飛躍を阻害するとはいえ、立体スタディエスキースの基軸にしたことで、単純に造形の操作性が向上した。特に平面素材操作系(H28,H29)にめっぽう強く、素材をリアルでこねくり回す作業を線形的に重ねれば、想像でできる範疇を超えた複雑な結果が得られた。

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同時に提出物の末端においては、文章の詩調や色鉛筆使用、B3での環境巨視、B2での1視点画面(切断)分割や立体への着彩、さらには空間構成における奥闇と、形式ハック的表現(とその説明)の引き出しを着実に増やしていた。そしてこちらは本番で概ね放出した通りだ。妥当性で導かれる結果をどこか超えた、面白さを求める僕のNN的動機があった。

そんなわけで、アルゴリズミックなプロセスを素直に(藤村氏のように)アルゴリズミックな結果に献ぐのではなく、むしろ皮肉を込めて盛大なNNの背骨にするという僕のエスキースは“線形デコン(ストラクション)”という些か矛盾を孕んだ異名を自称していた。そういえば相反する2極をもって課題の幅に適応せよなんて個性論もあったっけ。

本当に、僕はアルゴリズム的創造性が元来好きじゃないんだよ。入学したら好きなだけNNになりゃ良い、ただ入試をこれでパスするだけだ。まったく入試で受験生の何がわかるってんだ。

vii.線形の偽装

僕が所謂アルゴリズム(的建築)を好まない理由は、その根本的な詭弁にある。NNとは他でもない人間の脳みそのことだと定義した。すなわちおよそ人間の意志が絡んだ創作は、本質的にNNでしかありえない。ならばここまでひたすら論じてたアルゴリズムとは何だったのかというと、それは人間による恣意的な偽装であり、“アルゴリズム的NN”にほかならない。このことは前出の「超線形設計プロセス論」でも冒頭で自覚されている。

まったく、建築家やデザイナーというのは嘘をつく職業だと思う。矮小なNNをいかに巧妙に翻訳し、ひとを言いくるめるか…学部生に聞いてもだいたいそんなことを言っている。

はじめにアイデアがあり、あとから論理が通ずる。この記事の構成も、そんなことを意識した結果である。情報の順序が逆のようで、人間の認知にとっては自然なのだ。本来は先にあるべきものが、実際は後にある。このエスキースの確立も、形式から入ってあとから論理を入れ込んだことは読者の目にも明らかだろう。あ、ここらへんはもう、時系列的にはエスキースの概形ができたあとの、運用の注意点みたいな話ね。

viii.成り行きと空間

それから、メタ的なコンセプトや巨視的な概形から判断を積むスタイルには重大なトレードオフがある。ヒューマンスケールの体験に根ざした検討が相対的に手薄になることだ。

そこで、模型に人を入れるとか、フィードバックに人目線のドローイングを挿入するとかいったことが、せめてものバックアップとして須要になった。

それでもここはひとつの弱点のままだった。本番の総合表現も結局、人はどうやってあそこまで登るのかとか、空間体験で真っ先に問題になるところにまったく検討が及んでいない。人目線の空間体験から考えてそれを素材や条件に合わせるアプローチだった先輩(A評価)を見て、それが本当の順序だと思ってはいたが、そのプロセスのアルゴリズム化は難しかった。

これはプロセスを裏で操るNNや与える検討項目の洗練でマシに処理することができるはずだが、根本的な解決にはならない。ひとつの課題として、後輩たちに残しておこう。

ix.空間構成

ここまで暗黙のうちに総合表現を念頭に話してきたが、空間構成のエスキースはそのエッセンシャルな部分に収まる話である。こちらは従来NNでも総合表現ほど深刻なエスキース崩壊には至らなかったが、印象戦における個人のキャラの貫徹ということも考え、その線形化は総合表現から逆輸入(?)するかたちで最後に確立された。空間構成の構成はアルゴリズムで光らせにくいし、あまり重要だとも思っていなかったので、最終的には他受験生を嘲笑うかのような簡潔さに収斂した。

x.後輩たちへ

ながなが10000字にも膨れてしまった。入試対策で卒論書ける。それで、僕はこの(大西)流・線形エスキースを、藝大入試における「見せるエスキース」の極めて洗練された到達点だと自負してやまない。なんと言っても、本番出るか出ないかの要素に頼らず、もはや落ちる可能性がないのだ。本試前後の僕の数々舐めプも頷けるではないか。合格発表も冷めたものだ。ここに真の入試対策の完成を宣言しよう!新規性とかいう問題じゃないから、これそのまま真似すれば(少なくともそれが15人以下なら)まず受か…

──否。君たちに真似はできない。いや、能力の問題ではないんだ。

長々と読んできて、参考になったところもあれば、反駁したいところもあっただろう。よくわからないところも多かったかもしれない。それは当たり前で、全ての受験生は影響を受けた事物を異にし、思考体系の偏向と際限を異にし、そこに受験生の数だけの最適化があろうことを僕たちは知っている。ここに示したのはあくまで僕の、僕の中での最適解だ。たかだか今年の80人の中で“1番だった”とて、その上に何も無いわけもない。

ただ、僕は僕の仕事をした。あるべき自負はここにある。先行研究をサーヴェイし、近接分野を導入し、新たな体系を打ち立てた。それを発表するために大層なメディアまで拵えて(ほんとうに僕が藝大受験界に書き遺すべきはこの記事だけだった)。そしていま、君たちがこの山を登りつめ、頂に新たな石を積み始めるだろう。

願わくば、“次の10000字”のあらんことを。

 

(大西)

高校中退という選択肢

 

※この記事は、少しの冗談とそこそこの本気でできています。

 

 

 高校生の君へ

 

学校は楽しいか?

心の底から楽しいと言えるなら全く構わないんだ、この記事は読まなくていい。でも正直、正直だるい、つまらない、苦しいと思っているなら、僕は君に悪魔の囁きをしたい。

学校なんてやめたほうがいいよ──

…と。

僕(大西)は何を隠そう高校を2年の末で中退している。直接的原因はかねてよりの不登校による出席日数の不足だが、間接的には低レベルな授業や人間関係の枯渇によるうつ状態だった。美転をしたのもその2年の末だ…これ以上“勉強”をするエネルギーは無いと悟ってね。結果として僕は学校のない残りの1年を有意義に使って、藝大に現役(厳密にはこれは現役高校生の略なのだろうけど)合格した。余裕で。

ああ、この記事が共鳴する層は高校生のうちでもごく僅かだろう。しかし僕はそれがたった1人であったとしても、いやそうであるほどますます情熱的にこの記事を書かねばなるまい。僕は、なんとなく、君に何かを見込んでいるんだ──

すべての前提として、高校を卒業しなくても大学進学はできる。大人はあまり教えてくれないが、日本には高等学校卒業程度認定試験;通称高認という素晴らしい制度がある。少し解説すると、文部科学省が毎年夏と秋に「誰でも全科目クリアすれば高卒資格(→大学受験資格)をあげますよ」という試験を開催しているのだ。これが非常に(少なくともセンターをそこそこ取ろうとしている君にとってはその3倍くらい)簡単で、定義レベルのマーク問題を4〜5割正解すればクリア、おまけに高1の単位を取っていれば科目免除で残り2科目ぐらい受けるだけでOK。まず落ちることはない。それで高校3年分の登校、授業、試験勉強その他もろもろをチャラにできるという、そういう仕組みにこの国はなっている。

その上で、君が敢えて高校に通う理由とは何だろうか?

“現役生は学校で忙しいから入試対策の余裕がとれず、不利な中で戦わなければいけない”という風潮がある。不条理だと思わないか?現代の高校がこれほどまでに大学受験産業に阿っているにも関わらず、学校は多くの受験生の足枷となっている。 実技対策を要する藝大受験において、この足枷はますます重い──

まず一つには勉強だろう。建築科は特に、センターの対策は侮れない。しかし勉強ができる人にとっては、学校はちっとも勉強するための場所ではない。学校は言ってみれば勉強しない人に無理やり勉強させるための構造であって、自分でできる人は、一律カリキュラムの集団講義などというクソ非効率な枠組みに頼らずとも、塾や参考書でフレキシブルにやればよい。公立や中堅私立が直前期になるほどミチミチに講習を詰め込むかたわら、僕の(また違う理由で)中退した私立中高一貫は高3後期全休で1/3ぐらい東大に入れている。そういうことなんだよ。

そもそも、業界総出で祀っている“学力”なる指標にどれだけの普遍性と人間性があるのだろうか?“(受験)勉強”をする意味、に対するまともな説明を僕は聞いたことがない。この先の議論には茂木健一郎氏の以下の講演が素晴らしい資料になる。ぜひ聴いてみて。いや、受かった後でいいかな──

『学びのベストプラクティス』(茂木健一郎講演) - YouTube

あるいは、勉強以外で言うと、人間関係だろうか。受験生活にはエネルギーが必要で、エネルギーのパフォーマンスには精神的支えが必要だ。でも、それだって学校をやめたらなくなるわけじゃない。学校でできた友達とは外でも会えるし、家に帰れば家族もいる。何より、美術系の予備校には新たに固有の人間関係がある。高校よりも価値観の合う人が多いかもしれないし、受験についてはより共通の土壌を持てるだろう。それに高校生(の歳)にもなれば、社会の中のもっと開けたコミュニティに参加することも難しくない。人間関係は努力より出会いだ。同じ歳や学力に固執する必要は全くない。

僕の話をすれば、そもそも高校に友達もいなかったし、家に家族もいなかった。そりゃ鬱になる。でも高3の春、予備校に行ったらすぐに友達ができた。異性の友達も。鬱も治った。2年間も高校という小さなコミュニティに囚われて四苦八苦していたのは愚かだったと思った。まもなくMENSAというコミュニティに入ると、僕はもはや凡ゆる人間と友達になれた──

 

制度上は行く必要がなく、むしろ受験で足を引っ張られるとしたら…それでも学校に行く意味って、何だろう?

 

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おそらく学校の強いところは、レールに乗っかってるだけで受動的にある程度のリソースが享受できることにある。しかしそれ以上のことはない。与えられるものに不満があるのであれば、レールから外れて主体的に走れるのであれば……

結局は冒頭の問いに戻る。君にとってその学校は善か?基準はあくまで当人の心、ほかにありはしない。受験というひとつのテーマに照らしても、いまいちど考えてみてほしい。君は今、高校に行くことを“選択”しているか?

 

学校をやめるのは難しい。

近親は君の学歴の損傷を危惧し、同調型の日本社会はレールからの逸脱をよくは思わないだろう。藝大の選考で印象が下がらないとも言い切れない。僕の場合は既に病気やら出席日数やら中学の前科やら実績が溢れていたから簡単だったものの、思い立ったようにやめます!というのは現実的ではないかもしれない。

それでも、成果の出ない責任を学校の忙しさに託ける現役生に、僕は擁護する言葉をかけられない。高校に行くという選択をしている(はずである)以上、それは言い訳として正しくないのだ。あるいは、藝大合格より目先の自意識や安寧を優先しているのだろう。いや、何も責めないよ。でもそろそろ自分の人生に正直でいたいよね。もう高校生なんだから──(笑)

 

 

 大学も中退しそうな(大西)より

H30本試 再現作品集

 

7月末の入試成績開示をもって、H30年度入試に関する全ての情報が出揃った。藝大入試論考 建築科は内部から情報を収集し、ここに可能な限りの実例データを公開する。前代未聞の試みであるが、なにも作品は予備校の所有物ではないのだ。受験対策にとってこれほど力強いエビデンスはないだろう。

 

(随時更新予定。 - は不明・掲載不可または後日掲載)

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センター:604/800(75.5%)〈物/地理〉

空間構成:A⁺

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総合表現:A

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総合評価:A(合格)

 

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センター:535/800(66.8%)〈物/地理〉

空間構成:A⁺

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総合表現:A

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総合評価:A(合格)

 

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センター:-

空間構成:A⁺

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総合表現:A

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総合評価:A(合格)

 

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センター:-

空間構成:A

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総合表現:A

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総合評価:A(合格)

 

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センター:-

空間構成:A

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総合表現:A
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総合評価:A(合格)

 

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センター:593/800(74.1%)〈物/地理〉

空間構成:A⁺

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総合表現:B

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総合評価:A(合格)

 

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センター:-

空間構成:A

 

総合表現:B

 

総合評価:A(合格)

 

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センター:-

空間構成:B

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総合表現:A

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総合評価:A(合格)

 

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センター:-

空間構成:B

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総合表現:A
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総合評価:A(合格)

 

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センター:-

空間構成:B

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総合表現:B⁺

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総合評価:A(合格)

 

 

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センター:-

空間構成:-

 

総合表現:B

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総合評価:A(合格)

 

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センター:-

空間構成:-

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総合表現:-
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総合評価:A(合格)

 

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センター:-

空間構成:-

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総合表現:-

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総合評価:A(合格)

 

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【最速】影問題の解法

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ハイ、ということでね、今からH29空間構成の問1(影の求形)を5分で解いていきたいと思いま〜〜すwww

(問題はこちら。ネタバレなので解いたことある人だけ見てね)

 

まずは空間把握が大前提。パースをつけずに2〜3方向から立体を落書き。

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堅実に、接地してるとこから考えていこうかね。

コツ1. 鉛直な棒はそのまま倒す

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藝大はド親切にも、過去3回の影問題いずれも入射角を45°に設定してくれてる。この場合、任意の点はその真下から高さと同じだけ行ったとこに落ちる。棒が倒れるイメージ。

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例えばこの棒を倒して…

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こう。

究極、全ての基準点の高さに関してこれをやってけば終わりなんだけど、それだとまだ20分ぐらいかかっちゃうし、ミスも怖い。ということで、さらに工夫していこう。

コツ2. 水平な面はそのまま移す

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高さの同じ点どうしは同じだけ行って落ちるので、位置関係は変わらない。つまり地面と水平な面はそのままの形で地面に落ちる。これは入射角関係なく。

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これを踏まえると、水平な面は、そのうちの一点の移動先がわかればそれを基準に機械的に描ける。棒5本分ぐらい省略したことになった。

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で、立体と対応した辺を影にも全部補って、囲まれた部分が立体の影だね。あ、接地面は"地面に投影される影"とは捉えないことにするよ。

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四面体の接点の求め方はお好きに。縦の正三角形の斜辺が空間上で一直線に繋がってるのに気づくとかっこいいね。もちろん地面からの棒倒しでもOKよ。

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辺を繋いで四面体も完成。

コツ3. "点"で考える

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初めからそういう語り方だったと思うけど、立体ってのは点の集合だから、立体の一点に対応して影の一点があるわけ。立体は接してる(点がある)のに影は離れてるなんてことはありえない。計算だけでやるとミスってそういうことが起こったりする。気づけるように。

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球は長軸が伸びた楕円になるってのはまあイメージしてもらうとして、それらの影は空間と対応した接点を持つ。この問題で四面体と球が45°のラインで謎の接し方をしているのは、影が重ならないようにという配慮だね。察せるように。

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ハイ、そんなこんなで瞬殺。5分は既知だからだけど、コツがわかっていれば初見でも10分ぐらいで終わるはず?

形態はダサいけど、問題としては基本が詰まった美しいH29本試でした。

 

 

空間構成の本試では過去H25・H27・H29と隔年で全く同じ形式の三面図×影問題が出ている。ジンクスを守れば来年(H31)もそうなるのだが、いい加減この形式も腐らせるべきである。影問題なんて作業だからつまらない、それを一般認識にすべく、この記事を書いた。

現状、三面図は関門となるレベルのものではないが、影問題は合格者の中でも完答が少数派なレベル(求積まで含めるとH29は1人、H25に至っては0人と言われている)で、"正解しただけで受かる"とか"見切りをつけて絵に移るスキル"とか、果ては"H25は数lllを使わないと解けない出題ミス"なんて言説がまかり通っている。そんなはずがない。入射角が特別角(45°,30°,60°)である限り、点の移動先を定める作業(そしてその位置関係から面積を求める作業)は初等幾何に終始する。みんな義務教育受けたか?

とはいえ、この手の問題に触れたての人には思考回路の打設が必要なのもまた事実だ。先日わけあって東大生5人にこのH29本試問1を解かせる場面があったのだが、みんな2時間もウンウン唸って結局自力でたどり着けた人はいなかった。一人は座標空間を定義してベクトルを取り始めたので慌てて止めた。どこのペーパーテストも、頭の良さというよりは経験値なのだ。受験生のみんなもとりあえず上で話した考え方のコツを掴んで演習を積み、早いところ影問題なんて作業だからつまらない、と宣言しよう。

 

(大西)

建築デッサン原論①パース

このサイトもそろそろ、コンテンツの本筋である受験技術そのものについて、情報の蔵を築いていかねばなるまい。

今回から全3回にわけて、〈建築デッサン原論と題し、空間構成ひいては総合表現でモノを描くにあたって理解し・運用できるようになっておくべき原理をできる限り網羅的にまとめる。ゼロから一通り理解したい入門者から、思考を整理したい浪人生まで、迷ったときに参照し、理解の足がかりにしてほしい。

 

〈建築デッサン原論〉

①パース

②塗り

③光の反射・屈折

 

第一回はパース(遠近法)を学ぼう。これはモノの画面上でのかたちを定めるときに使う原理で、知らないと下書きができない。つまり何も描けない。建築科受験生の初歩であり、そして最後まで気の抜けない一つの大きなテーマになる。

 

 

建築科ほどパースが肝要になる科はない。一つにはモチーフの問題。主人公は人やお花など自然物ではなく、多く直線や直角で構成された幾何形態である。単純で描きやすいようにも思えるが、普遍的な寸法からズレると明確な"誤り"となるシビアな世界だ。また一つには、目の前にモノがないこと。実空間に立ち現れる形態を想像し"頭で描く"作業では、感覚ではなく理論がものを言う。

"感じるな、考えろ!"

 

0. パースの原理

さて。"原論"らしく、めちゃくちゃ根本的な話から始めよう。絵とは何か?

ここで言う絵とは写実画のことである。写実画とは、人間の視界を平面に起こしたものに他ならない。空間認識を平面化するにはキュビズム絵画や見取り図の類など様々な表記法があり得るが、人間の視界、すなわち瞳という一点に集まる物体からの光を任意の範囲(25°〜100°ぐらい)切り取って角度によってプロットした表記の再現が、普段そうやって空間を知覚している我々にとっては圧倒的に認識しやすいものなのだ(※当たり前のことを言っています)。で、建築科の試験でも、空間を作るモノの人にとっての感じをわかりやすく伝えたいので、この写実画という形式で平面表記せよというのが暗黙の前提なわけ。

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人間の視界の特徴はやっぱり、ある一点(視点)からの角度でプロットするってこと。実際の大きさは違っても角度が同じなら、画面上では全部同じ大きさ。

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逆に同じ大きさのものも遠くに行くほど画面上では小さくなり、その比率は視点からの距離と反比例する。

言ってしまえばこれが全て。皆さんご存知遠近法、美術の人間はカッコつけて英訳のperspectiveからパースと呼ぶ。

 

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参考:パースのない絵の例(キャビネット図/屏風絵)。無限の遠さから見れば角度の差が無視できるのでこうも見えるはずだが、奥行きの情報がなく空間描写としては弱い。

 

1. 透視図法

前章の話は、そのまま具体的な描画法につながっていく。

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同じ長さの棒の列は、遠ざかるにつれ一定の比率で短くなっていく。すると、その棒を幅とする、空間上では平行な2本の直線は、画面上では徐々に狭まる2直線となる。

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それは無限の彼方で一点に交わる。いや、空間上はどこまで行っても幅があるはずだけど、画面上では仮想の一点に漸近する。その点を消失点と呼ぶ。

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面白いのは、空間上で平行な直線は全て同じ消失点に収斂するということだ。なぜならそれらの線が平行である限り、その間に同様の比率で短くなっていく棒が描かれるから。例えばこの"道"に車線を増やしてみたり、路端に街灯を生やしてみるとき、はじめの2本と平行な線が見つかる。それらはこの消失点から作図できるだろう。

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ところで、隣車線まで行くともはや、道幅の棒の左端より右端のほうが視点から遠いはずだ。・・・ということは?

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右に行くほど棒どうしの幅は狭まっていき、同様のことが起きるはずだ。新たな平行線の組に、新たな消失点。

ちなみに、2つの消失点は画面上で同じ高さに来る。もっと言えばその高さは"視点の高さ"と同じになる。なぜか?

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"視点の高さ"の平面がある。視点を含む平面は"線"にしか見えないので、この平面上の直線たちの消失点はもちろんその"線"上にある。さらにこれらの消失点には"平面上にはないけど平面上の直線たちに平行な直線たち"も収斂する。結局、とにかく地面に水平な直線たちの消失点は絶対に"視点の高さ"の平面もとい"線"上に来る。この、画面上での視点の高さの線をアイレベル(eye-level)と呼ぶ。地面(これも水平な直線たちの集合である)が見えるのもこのアイレベルまで。仮に地球が丸くなくても、地平線はアイレベルに漸近する。

初習の人は、ここらへん無理に理解する必要はない。一発でわかる奴なんておらん。実際の運用とこういう原理的思考を行き来しながら、だんだんと感覚的に掴めてくるものだ。

 

ちょっとブレイク。

アイレベルの原理を知っていると、遠目に見ただけでモノの高さがわかるようになる。例えば今この記事を電車内で読んでいるキミは、ちょっと目を上げてみよう。

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水平な直線は町のそこら中にあるので、消失点からだいたいのアイレベルを求められる。それと比べて、向こうの人の身長が自分(の厳密には目の高さ)より高いかとか、あるいは自分が屈んでアイレベルを合わせれば、遠くのモノの高さ=その時の目の高さでだいたい測れる。

 

さて、空間のx軸とy軸の消失点を求めてきたので、z軸でもやってみよう。先の交差点に井戸を掘る。深く行くほど視点から遠くなるから、狭まっていって、そのうち…

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そのうち消失点があるはずだ。

ところで消失点の距離は、消失する線どうしの角度に拠るよね。このゆるい/キツイは何で決まるのだろうか?

一つは視線に対する(空間上での)線の角度。浅い角度から見るほうが遠近の差分が大きく、線たちの狭まりは急になる。加えて、全体的なパースのキツさを左右する大事な要因がもう一つ。それは視点からの距離だ。

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モノに近づくことによっても、遠近の差が出てパースは急になる。逆に言えばあなたはパースのキツさでもって、そのモノをどれくらい離れて見ているのか表現することになる。没入して迫力を見せたいのか、引いて静的に置きたいのか。考えて操れるといい。

あぁ、ちなみに。消失点の距離の話が出たが、実際に描く時に消失点から作図できることは稀である。なぜならだいたい画面の外に出ちゃうから。近めの外ならまだ練りゴムでも目印に置いとけばいいが、もっと緩やかなパースは基本的に感覚で狭めることになるだろう。感覚に慣れすぎた上級者は逆に、近めの消失点はきちんと作図するように。ボロが出るぞ。

 

話を戻して、井戸が掘れた。空間の三次元に対応して消失点が3つあるので、この状態を3点透視(図法)と呼ぶ。ここからいずれかの軸に線が無いか、あっても視線とほぼ垂直(→どちらが遠いともつかない)で消失点が省略されると、2点透視1点透視となっていく。最初の一本道の絵は1点透視で、交差点の絵は2点透視だったね。学校や予備校が大好きな分類だ。

参考:3点透視の例

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参考:2点透視の例

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参考:1点透視の例

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まあでもカテゴリーに囚われる必要はない。xyz軸だけで構成された豆腐近代建築を描くにはそれで良いかもしれないが、消失点なんて視線に垂直でない平行な線の組の数だけあるのだ。典型的な3パターンに収まる場合の方が少ない、くらいに思っていい。

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とはいえイレギュラーな線もだいたいxyzで求めた基準点から作図できるもので、次章で扱う円弧も基本的にはそう。究極、立方体が描ければ何でも描ける。

そこで、とにかくあらゆる方向から見た立方体を書けるようになるのが、パースに慣れたい人への宿題。暇な授業でノートの端にでも、色んな角度・視点の距離(∽パースのキツさ)から10個も20個も描いてみる。できれば手元に立方体を置いて見比べる。ハンズとかで小さいのを買って筆箱に入れておくでも、ケント紙で大きめに自作して部屋に置いておくでもいい。プロポーション(形態の比率)の精度を上げ続けよう。なぜかみんな横に太りがちだから、紙を回転させてチェック!合格者でも怪しいのを描いたりするから、終わりはない。

https://twitter.com/yuassamakoto/status/805790041750392832?s=21

立方体を正確に描く練習と、フリーハンドで長くまっすぐな線を引く練習は建築科の古典的筋トレ。日課にして信奉していた合格者も多い。

 

 

2. 円の描き方

さぁさぁ、一息ついてね。メインは終わりであとちょっと、補足するだけ。

2章までで直線のパースはあらかた説明し終えただろう。しかし空間構成の過去6年中5年の問題は、円弧に代表される曲線が組み込まれている。むろん、円にもパースは乗る。これも正確に描けるようになりたい。

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ベタなのは外接する正方形からばってんで中心→直径→接点をとってつなげる方法。しかし慣れてくると面倒くさいかもしれない。もう少し直接的な考え方もある。

円はどこから見ても円なので、ある種パースの枠を超越して捉えることができる。つまり、円を斜めから見ればそれは正方形の向き・形と関係なく必ずただの楕円であり(上図参照)、その長軸は円柱や円錐の軸と垂直になる(じゃないと回転したら形変わるので)。

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そんなことを意識するだけで、直径と軸の長さからいきなり形を取れるんではないか。それだけ。

 

まとめ

だらだら1週間くらいかけて書いていたが、相応の情報量が盛り込まれた。理論はまだよくわからない人も、とりあえず大事な公式を確認しておいて。

・視線に対して垂直でない、平行な線の組は一つの消失点に収斂する

・地面に水平な線の消失点はアイレベル上にある

・視点がモノに近いほどパースがキツくなる

・円の長軸は軸と垂直

4つの文章が何言ってるかイメージできていればOK。あとは憶えて実用あるのみ。迷ったら全ての根本「視点から遠いほど小さく」に立ち返ろう。何も考えず呼吸するように形が取れるようになるまで、ひたすら思考回路を代謝しよう。一周した頃に、またこの記事を読んでみて。

 

 

参考:受験実用範囲を超えてパースの神になりたい人に、こういうコアなサイトもあるよ。パースフリークス

 

おまけ. パノラマパース

ここまでの話は全部ウソです。いや、表記するには便利な話だけど、地球を平面の地図にするような、厳密性を欠いた話なんだ。だって最初の図からおかしいんだもん。賢い人は引っかかってたよね?

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隣車線まで行かずとも、直線の時点で正面から両側にパースかかるでしょ。両側に狭まっていくってことは、もはや直線ではいられないよね。

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そう、特別な位置関係を除いて空間上の直線は視界ではビミョーに曲がってるはずなの。だったら道のラインももはや比率は一定じゃない。

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一つの消失点から対極の消失点へ。全てが繋がった360°の景色の膜。伸縮する歪みがいざなうダイナミックな世界観。これがパースの本当の姿なのだ。

参考:パノラマパースの例

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なぜ直線を直線で描くことに違和感がないかというと、ヒトの視界が切り取る部分がごく狭いからなんだ。スマホのカメラも射角たかだか60°で四隅を引き延ばして直線を直線に見せている。でもある程度の──ヒトも無意識で見えている全体くらいの──範囲を写そうとすると、じきに理想パースの限界が来て、パノラマの出番だ。100°〜、いわゆる魚眼というやつ。魚や草食動物に絵を描かせたらそれが普通。人間では首を振らないと意識できない範囲だけど、ひとつのコンセプチュアルな表現として成立するだろう。それでなくとも70〜90°くらいの広い範囲を描く場合、(3点透視の高さパースもそうだけど)隠し味的に仄かにつけるだけでも空間感が深みを増してくるからおすすめ。練習には広角のスケッチを。自然な曲げ具合を掴まないと、キモい絵になるよ。

 

以上、奥深いパースの原原原理から、"知っているとアド"レベルまで一気に話した。焦らず、わかる所からゆっくり咀嚼して、いずれはこれくらいの記事は書ける一年生になって来てね。じゃあまた、いつになるかわからんけど、次回の原論で。

 

(大西)